滋賀医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科学講座

過去20年間の臨床の実績や研究内容について、2024年3月に耳鼻咽喉科臨床学会から「退官記念論文集」として発刊する予定です。以下にそのタイトルについて掲載いたします。

2023年5月
清水猛史


耳疾患

  • 先天性外耳道狭窄症の10例
  • 冷水反復刺激が誘因と考えられた外耳道外骨腫の2例
  • 当科における小児後天性真珠腫の治療成績
  • 成人の後天性真珠腫性中耳炎の治療成績
  • 中耳奇形23耳の手術成績の検討
  • 耳硬化症に対するアブミ骨手術の治療成績

鼻副鼻腔疾患

  • Extracranial trigeminal schwannoma in the pterygopalatine fossa successfully resected by endoscopic modified medial maxillectomy
  • 当科における鼻副鼻腔内反性乳頭腫例の検討
  • 上顎洞扁平上皮癌例の臨床的検討
  • 大津市におけるスギ・ヒノキ花粉飛散状況の変化と今後の展望
  • 鼻内視鏡下に摘出した腎細胞癌鼻腔転移例
  • 内視鏡下鼻副鼻腔手術で摘出した蝶形骨洞血瘤腫例
  • 前頭洞癌に対する化学放射線療法後に生じた慢性浸潤型真菌性鼻副鼻腔炎例
  • 鼻内視鏡下に摘出した腎細胞癌鼻腔転移例 ・鼻内視鏡下に摘出したHuman papillomavirus-relatedmultiphenotypic sinonasal carcinoma 例)
  • 難治性前頭洞炎に対しdraf3型手術を施行した例

咽喉頭疾患

  • 当科における声帯外方移動術(Ejnell法)の検討
  • 口蓋扁桃摘出術における術後出血の検討
  • PSGを施行した患者におけるOSAの危険因子

頭頸部腫瘍関連

  • 舌癌症例の治療成績
  • 中咽頭癌症例の検討
  • 下咽頭癌症例の臨床的検討
  • 喉頭癌症例の検討
  • 当科における経口的咽喉頭腫瘍切除術の検討
  • 唾液腺導管癌・多形腺腫由来癌に対する薬物療法の検討
  • EBウイルス感染耳下腺リンパ上皮癌例
  • 大腿筋内転移を生じた中咽頭舌根部癌例
  • 低分化癌への進展を伴う篩型甲状腺乳頭癌例
  • 深頸部膿瘍治療後に細菌性髄膜炎および硬膜下膿瘍を生じたLemierre症候群例

 

成人の後天性真珠腫中耳炎の治療成績

松本晃治

真珠腫性中耳炎に対する鼓室形成術は、真珠腫を完全摘出し、長期的な再発を回避すること、かつ聴力を改善することを目的とする難易度の高い手術である.

2010年7月から2021年12月の間に当科で初回鼓室形成術を施行した16歳以上の後天性真珠腫性中耳炎患者のうち、術後半年以上経過を観察した190例206耳について検討した。真珠腫の進展度は、弛緩部型・緊張部型ともにstageⅡが最も多かった. 真珠腫の進展度に応じて乳突非削開鼓室形成術または外耳道後壁削除乳突非開放型鼓室形成術「耳介軟骨による後壁再建」を施行した。計画的段階手術は、弛緩部型の22.0%、緊張部型の9.1%に行った。弛緩部型の1.6%、緊張部型の4.5%で再手術を要する術後再発を認めた。弛緩部型の75.1%、緊張部型の71.4%が、日本耳科学会の術後聴力判定基準による成功だった。

真珠腫の進展度に応じて適切な術式を選択することで, 再発率を低く抑えることができた。術後は再発の有無を確認するため, 5-10年間の長期的な経過観察が望ましい。


スギ・ヒノキ花粉状況と今後の展望

松本晃治

アレルギー性鼻炎の有病率は急増し, 現在は日本人の約半数が罹患している. その原因の多くはスギ花粉症の増加によるもので, 有病率は2019年で38.8%である.

われわれは花粉飛散情報を広く提供する目的で, 1995年から28年間にわたって, 滋賀医科大学医学部臨床研究棟屋上に設置したダーラム型捕集器を使用して花粉数を測定し, 滋賀県大津市のスギ・ヒノキ花粉飛散数として, ホームページ上に毎日の花粉飛散数を公表している(http://www.shiga-med.ac.jp/~hqotola/).

スギ・ヒノキ花粉飛散総数は, 隔年で増減を繰り返す傾向があり、明らかな増加傾向は見られていない。スギ花粉の飛散量は、前年7月の平均気温の上昇や日照時間の延長により増加する可能性がある。今後も温暖化の影響を勘案しながら、スギ・ヒノキ花粉飛散量の変化について継続して観察する必要がある。


鼻副鼻腔内反性乳頭腫の治療成績

大江佑一郎、戸嶋一郎

鼻副鼻腔内反性乳頭腫(inverted papilloma: IP)は鼻副鼻腔腫瘍の中で最も頻度の高い良性腫瘍である。治療の原則は手術による全摘出だが、基部の残存による術後再発や癌化が問題となる。

当科における過去20年間の鼻副鼻腔IP 58例について検討した。2010年以降、鼻茸を含む鼻副鼻腔腫瘤に対して外来生検を徹底した結果、当院初回治療IP例の術前IP診断率は42%から83%に増加した。2000年代であれば歯齦切開や外切開を選択した症例に対しても、 2010年以降はendoscopic modified medial maxillectomy (EMMM)やDraf type Ⅲの低侵襲な治療を行っているが、再発率は16%から3%に低下した。他院治療後再発例に対しても、腫瘍を遺残させた1例を除けば、当科で手術を行った症例の術後再発率は12.5%(1例/8例)と、初回治療例と比較して遜色ない結果であった。他院治療後再発例であっても、初回治療例と同様に基部を同定し、安全域を付けて腫瘍を骨面から剥離摘出すれば、治療可能と考えている。


上顎洞扁平上皮癌の治療成績

中村圭吾、戸嶋一郎

眼窩内浸潤は上顎洞癌の60~80%にみられ、機能面や整容面にも配慮し治療を行う必要があることから、本邦では局所進行上顎洞癌に対してはシスプラチン(CDDP)の超選択的動注化学療法と放射線療法の同時併用療法であるRADPLATを施行する施設がある。

 2010年1月から2022年3月まで、当科で一次治療を行った上顎洞原発悪性腫瘍29例のうち、扁平上皮癌17例(遠隔転移のある1例を除く)を対象とした。Stage Ⅲ以上の14例のうち、10例でRADPLATを施行した。全17例の5年疾患特異的生存率は81.5%であった。リンパ節転移陽性例の5年疾患特異的生存率は33.3%で、有意な予後不良因子であった。RADPLAT完遂後に根治的切除術もしくは鼻内視鏡下生検術を行った症例のうち、86%で腫瘍細胞が消失していた。RADPLAT後に残存腫瘍が疑われる場合、まず鼻内視鏡下に生検術を行い、病理学的に明らかな残存腫瘍がなければ根治的切除術を回避できる可能性がある。


中咽頭癌研究

中多祐介

中咽頭癌は、上あごから舌の付け根付近までの中咽頭に発生する癌です。頭頸部癌は、従来「喫煙」や「飲酒」などが発癌のリスク因子といわれていますが、近年喫煙者の減少とともに、その頻度は減少傾向にあります。中咽頭癌はその中でも増加しており、理由のひとつとして咽頭へのヒトパピローマウイルス(HPV)の感染が挙げられます。HPV関連中咽頭癌は、従来の「喫煙」や「飲酒」をリスク因子とした癌に比較し予後が良く、その為に根治性に加え機能温存を考慮した治療が求められています。

当科では、近年増加傾向である中咽頭癌に対し放射線治療や経口腔的内視鏡手術をはじめとした根治性と機能温存の両立を目指した治療を心掛けており、さらなる治療成績向上の為に臨床研究を行っています。


下咽頭癌の検討

新井宏幸

下咽頭癌は予後不良な頭頸部癌の一つで、初期には咽頭痛などの症状に乏しく、症状を有して受診した症例の多くは進行癌として診断される。その一方で近年の内視鏡技術の発達により表在癌の検出が可能になり、早期癌で発見される症例も増えている。今回、我々は2010年4月から2022年3月までの12年間に当科で一次治療を施行した下咽頭癌107例を対象に後方視的に検討を行った。治療方針として、手術が可能な場合、Tis・T1およびT2の一部には経口腔的切除術を行い、Nを認める症例には頸部郭清術を追加した。経口腔的に切除困難なT2およびT3・T4a・T4bには下咽頭喉頭全摘術および両側頸部郭清術を施行した。手術拒否例や手術困難例には単独放射線療法もしくは化学放射線療法を施行した。全症例の5年 全生存期間(OS)は57.1%、5年DSSは72.5%であった。Stage Ⅰ-Ⅱの早期癌30例における経口的切除術群19例の5年OSは77.1%、5年DSSは90.9%、放射線治療群11例の5年 全生存期間(OS)は72.9%、5年DSSは87.5%で、経口的切除術群と放射線治療群の治療成績は同等であった。Stage0-Ⅱで経口的切除術を施行した早期癌では32例中17例(53.1%)に局所再発を認めたが、適切な再発後治療により5年 全生存期間(OS)、5年 疾患特異的生存率(DSS)はともに良好な治療成績が得られた。経口的切除術における手術時の断端陽性例は7例(21.9%)で、切除断端の評価が不十分であった可能性があり、現在は正確な切除断端の評価に取り組んでいる。


喉頭癌の予後不良因子の検討

久保良仁

2012年1月から2021年12月までに当科で診断・治療を行った喉頭癌90症例について検討を行った。
 病期分類はStageⅠが39例、Ⅱが13例、Ⅲが6例、Ⅳが1例で、組織型は扁平上皮癌が87例、低分化癌が1例、小細胞癌が1例、紡錘細胞扁平上皮癌が1例であった。
5年生存率はStageⅠ~Ⅱの症例(計71例)で90.2%、StageⅢ~Ⅳの症例(計29例)で61.2%であり、ログランク検定で有意にStageⅢ~Ⅳの症例で5年生存率が悪かった。
 StageⅢ~Ⅳの症例29例について予後不良因子の検討を行った。
 初診時アルブミン(Alb)値が3.6以上であれば3.5以下の場合に比べ5年生存率、5年疾患特異的生存率ともに良好で、好中球・リンパ球数比(NLR)は4.0未満であれば4.0以上の場合に比べ5年生存率は良好となるが5年疾患特異的生存率は有意差がなかった。BMIは20以上であれば20未満の場合に比べ5年生存率は良好となるが5年疾患特異的生存率は有意差がなかった。リンパ節転移の有無は5年生存率、5年疾患特異的生存率ともに影響しなかった。手術例は化学放射線治療例と比較して全生存期間は良好であったが疾患特異的生存率では有意差がなかった。
 進行喉頭癌症例において、初診時 アルブミン(Alb)値3.5以下、好中球・リンパ球数比(NLR)4.0以上、BMI20未満、手術不能症例で、予後が不良であった。


唾液腺癌に対する化学療法

堀井翔平

唾液腺癌は耳鼻咽喉科・頭頸部外科領域の悪性腫瘍の中では約5%程度と比較的珍しく、さらに2005年WHO分類において23種類もの組織型に分類されています。この23種類の中には悪性度の高いものから低いものまで存在しており,一般に放射線治療や化学療法が効きにくいため,手術加療が治療の中心となっているのが現状です.
近年唾液腺導管癌や多形腺腫由来癌の一部、腺癌などで発現するHER2(ヒト上皮成長因子受容体2型)やアンドロゲン受容体を標的とした治療(抗HER2療法やCAB療法 : combined androgen blockage療法)は,乳癌・前立腺癌に対する標準治療となっています.副作用とその対策についても知られていることから、当科でも特定の耳下腺癌に対して抗HER2療法やCAB療法(2023年4月現在は保険適応外のため,当院の高難度医療・未承認医薬品等管理室の審査を得て自費診療)施行しています.


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