滋賀医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科学講座

研究活動

耳鼻咽喉科医として忙しい臨床に携わりながら、一流の研究を続けるための唯一の道はオンリーワンを追求することにあります。トップワンを争っても基礎の研究者にとても太刀打ちできません。臨床検体を得やすい利点を生かしてオンリーワンの研究を目指す必要があり、そのためには、「何ができるか」ではなく「何がしたいか」の発想が重要で、流行に飛びつかないこと、すでに他領域でわかっていることや、論文のためだけの研究に手を出さないこと、などが重要です。その研究がどれくらい重要かということを常に判断できる冷静さも要求されます。目的のためには何をしたらよいかという発想のもと、目的を見据えた「大河小説の様なストーリー性のある研究」「大樹に次々と花を咲かせて、枝を広げていく研究」を目指してください。

オンリーワンの研究を見つけるもう一つの秘訣は「素朴な疑問を大切にする」ことです。自然界の摂理は美しいので、直感的になじまない定説は、まず疑ってみる必要があります。また、疑問は持ち続けることが重要で、5年10年と考えているうちに、思いがけないところから答えが生まれ、時代が進歩して解決に導いてくれます。長年にわたって疑問に思っていたことが解決した時は、自然界の真理に触れたような充足感を覚えます。

基礎研究者と比較して、耳鼻咽喉科医が持つ大きな利点は、「臨床での疑問を有すること」、「臨床検体が容易に手に入ること」、「成果を臨床へ還元させる視点を有すること」にあります。こうした点に、耳鼻咽喉科医が研究を続ける意義があり、研究の重要性の判断には、「その結果が臨床にどう関わるのか?」という冷静な問いかけも必要です。 

私は2004年に滋賀医科大学に着任しましたが、2000年代初めごろから好酸球性鼻副鼻腔炎の病態が新たに注目され、2015年にJESREC studyによる診断基準が作成されました。2010年には2型自然リンパ球が発見され、上皮由来サイトカインの研究が進み、気道炎症における自然免疫の役割が注目されています。アレルギー性鼻炎の有病率は2019年には49.2%に急増し、とくに、小児から若年者のスギ・ヒノキ花粉症患者の増加が社会問題になっています。2014年からはスギ花粉舌下免疫療法が開始され、2015年にダニ舌下免疫療法が導入され、2018年から対象が小児に拡大されました。さらに、2020年から新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が流行し、3年経過した現在でも、まだ収束する気配を見せません。現在の当教室では、こうした「好酸球性鼻副鼻腔炎」「アレルギー性鼻炎」「舌下免疫療法」「COVID-19」さらに「嗅覚・味覚障害」など、時代に即した新たな病態に関する疑問とその制御に関する研究が大きく発展しています。

「上気道炎症の病態と制御-臨床における疑問に挑む-」と題した2023年日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会総会での臨床講演では、滋賀医大で行った基礎的な研究成果を中心に、こうした「好酸球性鼻副鼻腔炎」「アレルギー性鼻炎」「舌下免疫療法」「COVID-19」などに関する疑問にどのように対応してきたか紹介し、研究内容をまとめたモノグラフを作成しました。以下にモノグラフの目次を掲示し、その内容をe-bookとして掲載しますので是非参考にしてください。

さらに、過去20年間の臨床の実績や研究内容については、2024年3月に耳鼻咽喉科臨床学会から「退官記念論文集」として発刊する予定です。

2023年5月
清水猛史

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